「国体明徴声明」 昭和十年八月三日閣議決定 --- 恭シク惟ミルニ我ガ国体ハ天孫降臨ノ際下シ賜ヘル御神勅ニ依リ昭示セラルル所ニシテ、万世一系ノ天皇国ヲ統治シ給ヒ、宝祚ノ隆ハ天地ト与ニ窮ナシ。サレバ憲法発布ノ御上諭ニ「国家統治ノ大権ハ朕カ之ヲ祖宗ニ承ケテ之ヲ子孫ニ伝フル所ナリ」ト宣ヒ、憲法第一条ニハ、「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」ト明示シ給フ。即チ大日本帝国統治ノ大権ハ儼トシテ天皇ニ存スルコト明ナリ。若シ夫レ統治権ガ天皇ニ存セズシテ天皇ハ之ヲ行使スル為ノ機関ナリト為スガゴトキハ是レ全ク万邦無比ナル我ガ国体ノ本義ヲ愆ルモノナリ。近時憲法学説ヲ繞リ国体ノ本義ニ関連シテ兎角ノ論議ヲ見ルニ至レルハ寔ニ遺憾ニ堪ヘズ。政府ハ愈愈国体ノ明徴ニ力ヲ効シ其ノ精華ヲ発揚センコトヲ期ス。乃チ茲ニ意ノ在ル所ヲ述ベテ広ク各方面ノ協力ヲ希望ス。 |
現代語訳 --- 畏れ多くもよくよく考えてみますに、我が国のあり方とは、天孫降臨の際に天照大御神がご下賜された御神勅によって明らかに示されているのであります。すなわち、万世一系の天皇が国を統治あそばされ、皇位は天地と等しく永久に栄え続けて極まりないこと、これであります。ゆえに、憲法発布の際の御上諭には「国家統治の大権は朕が祖先から受け継ぎ、子孫に伝えるものである」と仰せられ、憲法第一条には「大日本帝国は万世一系の天皇がこれを統治する」と明示されているのであります。 従って、大日本帝国統治の大権は疑いようがなく天皇にあることは明らかなのであります。もし仮に統治権が天皇にあらずして、天皇はこの統治権を行使する為の機関であるなどとする考えの如きは、まったくもって他国に例をみない我が国固有のあり方の本質を見逃しているものであります。 昨今、憲法の学説をめぐって我が国のあり方の本質に関連して、様々な議論が生じているのがみられるのは、まったく遺憾に堪えないのであります。政府はますます我が国固有のあり方を明らかに示すことに努力し、その神髄を発揮することを約束する次第であります。 そこで、ここに政府としてこのような意思のあるところを述べて、我が国固有のあり方を示し発揮することに広く各方面の協力を希望するものであります。 |
「国体明徴声明」 美濃部達吉博士の天皇機関説に対し、昭和10(1935)年政府が発表した文章。天皇権を神話で基礎づけるもので、当時の全体主義への流れを示す重要な文献のひとつ。 |